W・P・キンセラ/W・キトリッジ/R・スケニック/G・ペイリー
S・ダイベック/S・ミルハウザー/D・シュウォーツ/J・F・パワーズ
J・A・フィリップス/M・モリス/D・パーカー
アメリカの作家の短編を集めた一冊ですけど、錚々たる訳者陣なのよ。
村上春樹氏、柴田元幸氏、斎藤英治氏、川本三郎氏…常々読ましていただいてます。
すみません、畑中佳樹氏は覚えが無かったのですけど『モーテル・クロニクルズ』は
持ってますので今度読んでみます。
収載されている物語には村上春樹氏によるグレイス・ペイリー2篇を筆頭に
ちょいと私ではついてゆけないものがいくつかありました。
これは完全に私の読書脳がコンテンポラリー向きじゃないせいで
作家、訳者の方々、ならびに作品がつまらないと言っているわけではございません。
読んでいて「あぁ、引き離されていく〜!」と感じました。
20世紀末の傑作を知ることのないまま一生を終えそうで怖いわ…
では、気になった物語をいくつかご紹介します。
『イン・ザ・ペニー・アーケード
(In The Penny Arcade)/1981年 S・ミルハウザー』
12歳の誕生日、両親をゲートに残して独りでぺにー・アーケードに入りました。
カウボーイ人形はのろのろとピストルを抜き、覗き眼鏡の女性は期待はずれでした。
すっかり廃れたアーケードを進み、ロープの奥の暗闇を覗き込んだとき景色が一変します。
訳者は柴田元幸さんなのですけど、ミルハウザーは同氏の『夜の姉妹団』でも
紹介されていて、なんとなく好きでした。
少し恐ろしく非現実的なようで、青春時代になら体験できそうなピュアさと
1970年、80年代ぽいノスタルジアが、そこはかとなく漂っています。
『愛で責任が始まる(In Dreams Began Responsibilities)/1937年 D・シュワーツ』
1909年、映画館にいるようです。
そしてスクリーンには結婚前のパパとママが映っていて、デートにでかけるようです。
二人はコニーアイランドのレストランに入り、パパがママにプロポーズをしました。
撲は思わず立ち上がり「結婚しちゃいけない!」と叫んでいました。
あらら、けっこう古い作品でしたが、80年近く前の作品とは思えない新鮮さです。
二人の将来を知っている息子の心の叫び…なんか怖いですね。
結婚前の二人は誰が見ても幸せそうなものですが、いつまで続くかは人それぞれ…
あまりにベタベタしている芸能人夫婦とか見ると、離婚する時が心配(&楽しみ)になる私。
大きなお世話ですよね。
『嵐の孤児(Orphans of the Storm)/1985年 M・モリス』
休日になると血がつながっていない姉アリスと夫ジムの家を訪ねていました。
美しく完璧なアリスは15年間ジムに夢中です。
アリスとジムの夫妻、そして二人の娘たちの家庭は完璧です。
アリスの誕生日に訪ねると、アリスは山のようなジムの衣類を洗濯中でした。
はっきりとしたテーマがある話ではないのですが、文章の流れがとても好きな一編でした。
アリスが洗濯をしていたわけは、夫の衣服に香水のにおいがついていたから…
15年間熱愛していた夫の浮気を知った後のアリスの行動は…見習いたいぞ!
このまま終わってしまうわけでもなさそうな余韻も心憎いラストでございました。
多くの作品を手がけてきた訳者がお気に入りを持ち寄った一冊なのでしょうね。
好みの違いが反映されている分ブツ切り感は否めませんが
好きか嫌いかはさておき、この5人で一冊の短篇集を発刊できたというのは快挙では?
文藝春秋! ありがとう!!
欧米文学好きには素敵な贈り物でございました。