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Channel: まりっぺのお気楽読書
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『ジャンプ 他十一篇』シンボル、フォーカス、プリズム

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JUMP AND OTHER STORIES 
1991年 ナディン・ゴーディマ

私は先日、『バージェス家の出来事』で、人権とか難しいことを考える本は避けたいな… 的な
ことを書いてまして、本来の読書スタイルはそのとおりなんですが
今回は自らどっぷり身を投じてしまった…

ナディン・ゴーディマは、ノーベル賞をとっていたので名前だけは知っていましたが
読むのは初めてです。

南アフリカ出身の白人作家が描くアパルトヘイト末期のエピソード…
どちらかというと、差別問題の云々よりも、アパルトヘイト撤廃直前の南アフリカで暮らす
黒人、白人双方の戸惑いや本心を知りたいという理由から手にしてみました。

ものすごく考えるところが多かった一冊でしたが、正直言って何に対して考えればいいのか
まだまとめきれずにいます。
読んでいて楽しくもなく、好きなタイプのストーリーでもないのですが
とても入りやすい文章で、けっこう没頭することができましたね。

内容は、やっぱり大きく人種問題にウエイトが置かれているのですがケースは様々です。
説明するのはすごく難しいのですが、読み終えて一冊まるごとの印象をひと言で言うなら
登場人物の温度差でしょうか?

本当は12話全部書きたいぐらいなんですが、特に印象的だったいくつかをご紹介します。

『究極のサファリ』
おかあちゃんが買物にいったきり戻って来ないので、おばあちゃんの家に行ったが
何も食べるものが無く、何人かの人たちと村を後にすることに決めた。
何日も何日も、誰にも見つからないようにクルーガーパークを越えて行く。
白人がキャンプで焼く肉の匂いを嗅ぎながら餓えたからだで歩き続ける。

幼い少女の目線で進められる物語です。
死と隣合せで歩く彼女は、バーベキューをしながら余暇を楽しいんでいる白人に対して
恨みや妬みはないみたいで、当たり前のことだと思っているようです。

『幸せの星の下に生まれ』
一家は息子の部屋が空いている間、ラッドという黒人の青年を下宿させた。
ラッドはおとなしく礼儀正しかった。
17歳の娘ヴェラは、彼とほとんど口を聞くことがなく、意識もしていなかったが
酔って帰ったある夜ラッドに介抱されてから彼に惹かれていく。

舞台はイギリスかな? ヨーロッパのどこかだと思われますが、テロの恐怖が
だんだん人ごとではなくなっている今日この頃、この話しには微妙な気にさせられます。
国を取り戻そうとする志と正当性と手法のギャップを
外国人はどういう立ち位置で見ていればよいのでしょうね?

『銃が暴発する寸前』
アフリカーナー(白人支配階級)ファン・デル・ファイヴェールは
自分の農場の使用人を撃って死なせてしまう。
狩りに行く途中の事故だったが、ファイヴェールはこの事故が世界中に報道され
彼らの運動の恰好のターゲットになると、きっとそうなると知っていた。

アパルトヘイトでも奴隷制でもそうだと思うけど、残酷な雇い主がいた一方
制度は制度として利用しながらも、人と人の付合いをしていた雇い主もいたと思うのね。
ただ、その制度下で起こったことはすべてが同一視されてしまう場合もありますよね。
一度糾弾が始まれば、どんなに違うと叫んでもその声はかきけされてしまうかもしれません。

『どんな夢を見ていたんだい?』
彼のために車を止めてくれる白人がいるわけもなく、黒人は金を要求するので
照りつける太陽の下をずっと歩き続けている。
しかし、青年と年配の女性の白人二人が乗った車が止まった。
青年の次から次への質問に、彼は白人が気に入りそうな返事を考えて返す。

“ 彼 ” はカラードといって、白人と黒人の両方の血を持っている人らしいのね。
だからどちらのこともけっこう冷静に、冷笑的に見ているような気がします。
助けてくれた人に対して、喜ぶような返事を(作り上げてでも)しようとする姿勢は
卑屈になっているわけではなくて、自然に身についたみたい。

ある問題を外部から眺める時、特に象徴的なものに焦点が当てられますね。
この問題にはこれ、この問題にはこれ、と刷り込まれているイメージに
ピッタリの対照が見つかった時、世間は容赦が無くなります。
事実とは多少違っても、イメージに合うように屈折してしまう危険もあります。

彼女が白人だからというわけではないと思いますが、悪制の象徴にされてしまった
南アの白人たちの戸惑いが読み取れるストーリーが印象的でした。

この『JUMP AND OTHER STORIES』は、アパルトヘイト完全撤廃の3年前に書かれていて
内外の撤廃運動が最高潮に盛り上がっていた時期だと思われます。

でも、渦中にいる人々の中にも、猛烈に反対運動をする人がいるかと思えば
なんの疑問も抱えずにいる人もいたり、当事者でありながら部外者みたいな人が
いたりするということが、なんとなく伺い知れますし
白人の中に広がる危機感の温度差も垣間見えました。
撤廃後も平坦な道のりではないんだろうな… という予感も抱かせます。

考えさせられることはたくさんありましたが(ここまで書いといていうのもなんですが)
あまり人種問題ということにとらわれすぎると難しく思えて、せっかくの良書を
私みたいに手にするのを避けて生きてしまうことになるかもしれませんね。
ストーリーだと思えば、面白いというと誤解を招くのかな?文章もテンポも良い一冊なので
興味がある方はぜひ読んでみて下さい。

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